嘆息も、あの主の変った廃館を見たかったためだったのかと、彼は自分に会話を教えた教師の胸に今も失われぬその夢の巣を、彼女に代ってなおよく覗いた。入日の変化につれて、海草の広大な層がそこだけ見る間に黒く変っていった。残光の漂った水面を掠め汽笛がまた鳴りつづけた。そして、時計の歌の消え入るような余韻を腹に沁み透らせ、港はしだいに灯を明るくしていった。
「矢代さんにお話したいこと、それはいろいろあるの。いつかまた、ゆっくり落ちついたときにね。」
 と真紀子は食卓につく前に、あきらめに似た悲しさを含んだ声で、矢代の傍へ来て云った。
「どうぞ、是非来て下さい。」矢代は真紀子の不幸な旅を慰めるつもりで短く云ったのだったが、しかし、自分はこのような屈託のないことも、帰って以来千鶴子にまだ一度も云ったことはなかったと思った。

 一同が食堂のテーブルについたころ外はまったく暗かった。そこへ藤沢帰りの久木男爵から東野に電話がかかって来て、すぐこれから行くから待っていて貰いたいということだった。食事も半ばまで進んだとき、平尾男爵は、隣りにいる田辺侯爵に、
「どうだね、このごろ君の郷里の方の忙しさは。」と訊ね
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