いていった。薄明りのころの横浜は遠い沖が瑠璃色に傾き、船の赤い横線が首環のように水面に眼立って来る。矢代はパリにいるとき、カルチエ・ラタンで久慈と食事中、傍にいたアンリエットが突然、匂いの強いセロリの茎をぽきりと折って、「ああ、横浜へ行きたい。」と嘆息を洩した夕暮どきを思い出したりした。そのときは、千鶴子が明日ロンドンから来るという日で、二人は彼女の宿の選定に悩んでいたときだったが――
茂った帆檣の見える埠頭の方から汽笛が鳴った。バルコオンの欄干のところで、真紀子と千鶴子は皆から少し離れた位置に立ち、裾に微風のそよぐ忍び声で何事か話していた。二人の笑顔を海面からの反射が細かく浮き上げ、スカートのぴったりと締った物腰の揺れる、あたりの燃えるようなひとときだった。
その横の空地を越した向うに、アンリエットが父と二人でいたという、廃館になったマッサアジュリーム会社の白壁が見えた。
矢代は、そこの白壁に射し返った入日を受け、ペンキ塗の緑の鉄柵の影が折れ曲っているのを見ているうち、ふと急にうつろうものの寂しさを覚えて来るのだった。
「ああ、横浜へ行きたい。」
と、そうアンリエットの洩した
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