人間はどうしてあんなに憂鬱な顔をしているんだろうと、何んの気もなく話したことがあるんだが、そうしたところが、いきなり横から、こ奴はファッショだと、怒鳴られたことがあった。とにかく僕は、あの長いロシアの道中で、笑っている人間の顔を見た記憶がないのだけれども、あれは一つは国民性か、それとも他に原因があるのか今は疑問ですね。その疑問だけは本当なんだが。」
「しかし、そういう重大な疑問を、自国民にも話し得ないということは、そりゃ、世界の誰も彼もが戦戦兢兢として暮しているという証拠だね。とにかく、もう起るものは起っているよ。そして、救うものもこれでどこかに潜んでいるんだ。」と東野は云って窓から樹の間越しに海を見た。
「にこにこしている大阪か。救うのは。」と由吉は間を脱さずひやかしたので、また皆は一緒に笑い出した。
このような真面目な話題や雑談がお茶どきから夕食前まで一同の間で続けられたが、時間はおどろくほど早く過ぎた。そして一同はロビーから六階の高い食堂へ移り変って、夕日に漲る海面を下にしたバルコオンで食事の支度を待つのだった。大きく拡がった海が刻刻に色を変えてゆく後から、追うように灯が港に点
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