なかこれが、大切なんだと思ってるんです。今でも僕は国境を入ってきたときの感動を、これは自分の鍵だと思って大切にしていますよ。」
「そうだろうね。もしそれを疑っちゃ、――」東野は暫く黙った。
「しかし、その鍵を疑うものは実に多いね。そ奴を知性だと思わして元も子も無くさせる非文化的な病いが世界中に蔓延しているんだよ。何ものの仕業か知らないが、こ奴にかかっちゃ、今にもう僕らは戦争をさせられるよ。世界中がじくじく腐って来たのだ。」
二人はもう黙ってしまった。遠くに見える東野の乗って来た船の周囲は、まだ荷揚げがつづいて忙しそうだった。二人は間もなくそれからホテルへ戻っていったが、東野は実家の方へ帰してある夫人や子供に、出迎え不用の電報を打ってあるので明日でもそちらへ行かねばならぬと話した。
ニュー・グランドのロビーでは一団のものらは悉く揃って二人の来るのを待っていた。二人が見えると、白い葡萄酒が各自のコップに注がれて皆東野たちの無事帰朝を祝し合った。その後の一同はそれぞれ思いの残る場所場所の話で持ち切っている中でも、特にひそひそ声をひそめて訊ねたり、答えたりするようなことも多かった。由吉の
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