身辺は絶えずそれらの話題で豊かだったが、しかし、真紀子だけは実家が横浜にある関係上、話の途中にも電話がしきりにかかって来て場を立ったので、その度びに顔の曇るのを眺めるのは気がかりなことだった。
「お忙しいんじゃない。お帰りになったら。」
 と見かねた千鶴子は真紀子にすすめても、真紀子は何か決するような表情でいちいち電話を処置していた。家に戻れば耐えられぬことの積み上って来る煩わしさから、一時でも遠ざかっていたい焦躁が、却ってこういう場合いつも彼女を活き活きさせて来るのは、まだパリ以来の真紀子の癖だと矢代は思った。家は明治の古い貿易商で、ウィーンに残っている彼女の別れて来た良人の早坂が養子であるうえに、真紀子もまた養子であるということ以外彼の知るところはなかったとはいえ、それだけでも家中の煩雑さを了解するに事欠かぬ事情が揃っていた。
「しかし、僕はアメリカの日本街というのを見て一寸驚いたね。何もあそこは大阪と変らないじゃないか。暖簾の懸った銭湯もあれば、床屋へ入れば、どんなに刈りまひょ。といきなり問われたりして、僕は郷愁を覚えたよ。」
 平尾男爵は突然こう云って笑ったので、皆誰も感合した
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