れた、他の多くのものにも共通した旅愁ともいうべき旅人の特長だった。まったく事情の違う西洋という抽象の世界に急激に入り込んだものに突発して来る旅の錯乱に、批判の根拠の移動する不決断に伴って当然に起る、自己喪失の病いを植えつけられ、自分を蔑視する苦しさもあきらめに変えてしまう。そのような内地にあり得ぬ不具者となって帰朝して来るものの多い中でも、東野はまだ東洋人の精神を喪っていない方の一人だった。実際、西洋の旅は、東洋人にとっては難かしい狂いの連続といえばいえるものだと、矢代は、欄干に巻き結ばれた船のと纜《ともづな》に凭りかかって考えるのだった。そして、由吉や塩野らの一団の上を見廻しながら、これらの人人も何らかの病根を抱いてそれぞれ苦しんでいる一群れだが、果して存命のうちにその病いは取り去ることが出来るかどうか、疑わしいことだと思った。
「船がここの港のあの灯台のところまで入って来たときに、突然海中へ飛び込んで、自殺した婦人があったということを聞いたが、――それは外国へ行くときに、事務長からコロンボあたりで聞いたんですがね、どうもそのときには、よくその婦人の気持ちが分らなかったが、帰って来て
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