暗なばかりだった。そのうち彼は眼が醒めた。醒めてからもまだ暫くは静かなその父の姿が眼から離れなかった。
それは父の一番穏かなときの美しい表情だったが、生前のときの顔ともまた違った品位の具った顔だった。
雲行きの和かになった空に、辛夷の蕾が毛ばだった苞を裂いて揺れ始めた。空を白くぼッと染め春の支度に忙しそうな速さの風も、蕾のあたりは、一面匂い立つように霞んで過ぎた。先端を揃えたものの芽も一斉に揺れ騒いで、一日一日と空は明るく、降る雨もみずみずしい温みで肌を潤すようになった。
矢代は東野が横浜へ着くという報せを千鶴子から受けたのは、このようなころであった。東野はどうしたものか真紀子と一緒で、またこの船には平尾男爵やその子たちも共に乗っているという、塩野からの葉書も届いた。
船の着く日、矢代は正午から横浜まで出かけていった。この日は田辺侯爵邸で会った人たちもそれぞれ出かけていることと予想されたので、また賑やかな日となり帰りも遅くなることだろうと思ったが、船の出迎えは汽車とは違い、海風に吹かれる新鮮な魅力を覚えて朝から矢代は時の近づくのが待ち遠しかった。殊に父が亡くなってからまだ日
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