二時を過ぎているのに病院の玄関にはまだ灯が点いていて、着替えてもいない医者がすぐ出て来た。そして、矢代の話す父の容態を良く聞きもしないうちに、
「今さきも同じ患者さんがあって、帰って来たばかりですよ。お天気が激変しましたからね。」
と云うとまた医務室へ這入った。雪で自動車の動かぬ弁解も少しあったが、それでも医者は彼と一緒に雪の中を歩いて来てくれた。
家では父の吐物がもう片付けられ、蒲団から乗り出した父の頭の下に別の蒲団も継ぎ足して敷いてあった。仏壇や神棚に灯明も上げられた明るく変った家の中で、母は覚悟あるらしいひき緊った顔に戻っていた。取り替えた着物もさっぱりとしていつもより母は若く美しかった。
医者は矢代より先に玄関を上ると無造作に障子を開け、襖を開けて父の寝ている部屋を直感しているらしくどしどしと奥へ通った。そして、矢代が家を出るときと同じ様子で倒れている父の襟を大きく開き聴診器を胸にあてた。厚く逞しい父の胸部には起伏もなく色も早や幾らか変っていた。診察を終ってから、医者は傍に坐っている矢代と母の方に対い、
「御愁傷なことでございます。」
と一言低く云った。医者の帰ってい
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