この母にちがいなかったが、言外に意もあるらしい今の母の話し振りでは、千鶴子のことも朧げながら早や察しているかと頷かれる節があった。
「細君のことは、まア、もう暫く待って下さい。」
矢代は言葉を濁し、気軽く菓子を摘まんだ。そして、昨日千鶴子と虎の門で見立てたソファがもう着きそうなころだと思って時計を見た。
まだ畑へ出るには早すぎる寒さだった。矢代は鍬を持って外へ出てみた。畝も消えて平べったくなった畑には、夏から抜き忘れたままの黍が数本立ち枯れて残っていた。萎びた葉をべたりと地につけている大根と一緒に、それらを引き抜いた後から彼は畑に鍬を入れていった。
一打ちごとに足もとからむっと土の匂いが掠めのぼって来ると、彼はブロウニュの森で千鶴子と二人で草の中に伏し、土の香を嗅ぎつつともに日本を偲んだ日の、ある午後のひとときを思い出したりした。そして、日本へ帰れば何より先ず畑を耕したいと思ったりしたことも、今ごろ漸く実行し始めた彼だったが、「身土不二」という昔からある言葉の深い意味も、こうして打つ鍬の重さ、土の匂い、汗の香の中から味われて来る思いがした。
しかし、彼は土を掘り起しているうち
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