、久木さんの会社にお勤めだったから、早いもんだわ、もう三十年以上になるんだね。お正月になると、社長の久木さんが社員の前へ出て御挨拶なさるだけで、一年に一ぺんお顔が見られたもんだそうですよ。それにあなたの昨夕のお話本当なら、それはお父さん、愕きなさるわ。」
六十に近い年にしてはまだ頬の皺もあまり見えず、切れ長の眼に、髪も濃い母の顔を矢代は眺め、母に較べて老いこんだ父の白髪を眼に泛べた。
「しかし、お父さんも年をとられたと、つくづくこのごろ思うな。外国へ僕が行く前には、ああではなかったんだが。」
「一緒にいると分らないけど、そうでしょうね。そうそう、先日もね、お父さんあなたのお嫁さんのことも心配してらっしゃるの。いつになったら耕一郎から云い出すか待ってみてるんだが、お前にはまだ何も云い出さないかって。あなたも決めるものなら、そろそろ決めて早くはありませんよ。」
嫁の話は母からは云い出さず、妹の幸子から、やがて切り出されることとのみ思っていたときとて、そんなに母から云い出されると、彼も自然に顔の熱てりを覚えた。それも自分の結婚の相手が千鶴子だと分れば、誰より反対しそうなものも、気性の強い
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