それも一つは、男爵が自分の気に入った人だからだと矢代の思ったのはまだしも良いとして、いつの間にか彼は、もし千鶴子との結婚の場合に、父や母が不承知のときを想像し、そのときには久木男爵に頼み両親を説き伏せて貰う虫の好い考えさえ、幽かに頭に忍び入って来るのだった。それはその可能性があるとしても、頼み込むべき筋合のものではなかったが、千鶴子が気に入りの侯爵夫人に、自身の方の両親を説きすすめて貰う努力をしているのが瞭かな現在、こちらもそれに相応した説得者として、ひそかに久木男爵を選び考えたのは、特に男爵に面倒をかけることでもなく、ただ一筆両親へ手紙を書いて貰えれば良かったからである。それにしても、もしそんなことでもすれば、父は分を知らぬ子の行いに、ますます怒ることなど矢代には眼に見えた。
 下枝を移っていく鶯を眺めながら、彼は、この上久木男爵に会って親しくなれば、頭に泛んだことも頼み込みかねない自分を知り、やはり男爵とはもう再び会うまいと決心するのだった。
「お父さんが久木さんの会社にいたのは、幾つぐらいのときだったんですか。」
「そうね、ちょうどあなたほどの年だったかしら。あなたの生れたときは
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