と、必ず誰も失敗するものですから、云いたくとも僕にも云えないのですよ。僕は世の中の人間で道徳というものを間違えずに説明できた人は、まだ誰一人もいないのだと思うようにまでなっているのです。そのくせ、誰も彼も道徳だけは、道だ道だとばかりで、未知なことにして置きたいんじゃないかと思うんですが、甚だ僕の考えは極端なんですけれども、これはさっきも宇佐美さんの仰言ったように、それは事実だと思うんです。」
矢代は定めし多くの異論が出ることだろうと予期しながら、もう裸体で人人の前へ飛び出すようにそう云ってしまった。遊部は矢代の云うのを聞きつつ、ときどきぴくぴくと眉を跳ねてはまた冷笑を洩して黙っていたが、やはり彼が真っ先に口を切った。
「しかし、科学を信用しないって、どういうものですかね。自然の合目的性を認めることが神を認める唯一の方法だと発見したのは、科学の何よりの信用し得べきところで、またそれが人間というものの価値の大きさを実証してみせてくれたんじゃありませんか。」
「僕は神というものは、そういう合目的なものだとは思えないのですよ。」と矢代は府向いたまま小さな声で云った。
「それなら何んです。」
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