の動かぬ思いでもう苦しかった。
「私はパリにいたときも、友人と今夜のような問題で、いつも喧嘩ばかりしていたのですが、どうも日本へ帰ると、向うで血眼になって争っていたことも、だんだんつまらなく思えて来て、何んだか議論をするのが嫌になっているんです。何んと云いますか、皆さんどなたも御経験お有りの方ばかりのようですが、西洋へ一歩上陸すると、思いがけなく、これは戦場へ来たぞと思いますね。たしか私らにはあれはまだ見たこともない戦場でしたから、初めは何が敵だか分らぬながらも、とにかく、敵の真ッただ中にいるんだということだけははっきり感じますから、言葉を一つ違えると、味方も敵に見えてしまって、随分負傷をしたり、死んだりするでしょう。恐らく僕は無事に帰って来た人はいないんじゃないかと思うんですが、しかし、僕はやっと無難か、無能か、ともかく帰れたというのも、その原因は科学を自分が信用していなかったからだと、このごろになって思うんです。その代りに、僕は道徳だけに獅噛みついて、これさえあれば、後は何も人間には要らぬものだと思ったのです。それならその道徳とは何んだろうということですが、これは口に出して説明する
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