。」
久木男爵は眼鏡を一寸取り脱し、一種異様に鋭く光る目の色で矢代の方へ体を傾けた。
「まあ、そうです。それが東洋人の僕らから見ると、十四五世紀の問題として映っているのかもしれないですから。そこが難しくて。」
と矢代は答えた。
「じゃ、あなたがたは、科学と道徳とどちらが良いと思われるのですか。」
「そこが、僕等の論争の中心なんですが、僕は道徳だと思うのです。」
「僕は科学だと思うな。」
と音楽家の遊部が横から云った。
「さあ、それはどうだか、――いや、それは難しくなって来ましたね。」
と久木男爵は云い直してまた眼鏡を懸け首をかしげた。
「でも、それは道徳よ。」
と突然藤尾みち子は別れた前の夫の遊部を見て云った。何かその声の中には遊部の無礼を憤る短く張った声が籠っていた。
遊部夫妻の過去のいきさつを知っているものらは一瞬どっと笑い出した。矢代はこの一家庭もルネッサンスの中核体に触れ飛び散ったひと群だったのかと、初めて知って二人を顧みた。
白い卓布の上に並んだ客たちの表情は、遊部とみち子のもつれかかった気持ちを享けて、暫くは両方に別れたままだった。そこへ女中が薄切りのスモーキ
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