ングの鮭を持って顕れ、空いた皿と取り替えた。光沢のある越州の壺に似合った冬薔薇の華やいだ向うで由吉は無造作に鮭を食べたその途端、「あッ、これは見事だ。」と云って感嘆した。一同危く道徳派と科学派とに入り乱れて混乱に陥ち入りそうなところだったので、こういう由吉の嘆声は、思いがけない逆転を起して客たちの視線を皿の鮭の上によせ集めた。
「侯爵、今夜のコックはただ者じゃないですな。」
 由吉に云われて田辺侯爵はかすかに笑っただけだった。二人を見ていた矢代は、どことなく微妙な音を発した美しさを感じ気持良かった。由吉は鮭を食べ終ると手帳の紙片をひき裂き、コックに手渡す今夜の礼を書きかけたが、侯爵の方へ一寸延びて、「日本人?」と訊ねた。
「フランス人だ。郵船にいたんだがね。」
「そうだろうな。」
 由吉は日本語の礼を消してまたフランス語に書き変えるとその紙片をコックに渡して貰いたいと女中に頼んだ。一同だれも由吉に少し敗けた形で暫く黙った。しかし、臆面もなく客たちの前で、そんなことを敢てした由吉は少し照れたのであろう。
「どうもこんなことは面倒くさいが、して置くことはして置く方が良いからな。」ひとり弁解
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