れでも認められているのですよ。」
冗談らしく老人のそう云う笑いの蔭にも、いずれこの真実さえ皆から揉み消されるであろうと寂しむ響きが流れていた。
半ば繰り上げられた部屋仕切りの天鵞絨の蔭からピアノの羽根が見えていて、その方から食器の音が聞えてきた。矢代は千鶴子の方にはあまり視線をむけないように気をつけた。そして、久木男爵の談を聞きながらも、さっきから一同とは違った、ある云いがたい、別な親しみと苦しみとを混じた気持ちを次第に強く覚えていた。それというのは矢代の父が青年時代のあるころ、先代の久木男爵の会社の社員だったことがあって、かすかながらも、記憶の底からそれが浮き沈みしつつ頭をあげて来たからだった。たしかに今はどちらも、全く別な二家の子供たちだとはいえ、一時は父も世話になったと思う子の矢代の気持ちは自ら違っていた。
あらためて誰かに紹介でもされれば、ひと言それを述べ謝意を表したいと思ったが、しかし、こんなに上下の区別のない稀な会合の場合、むかしの主従関係を口にして空気を濁すということは、却って向うを苦しめることかもしれず、また傍に千鶴子のいるということが、なお矢代にそれを云わしめる
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