られた。今日中に五十万円集めよという命令さ。それで実は追っかけて来たんだけれども――ああ、くたびれた。」
 と云って両腕を曲げ後に反った。この間老人は少しの表情もなく、他人の方を一度も見ようとしなかった。矢代が後で塩野に老人のことを訊ねると、それは有名な船会社の社長の木山だということだった。一介の貧書生から実業界の大物に登り上り、一時は成金の代表者のように云われたことのある、この木山の力量の冴え方については、前からたびたび矢代も聞いて知っていた。が、よく見ていると、誰からも一度は軽蔑を買いそうなその貧しげな姿ながらも、とりわけ、動きのない一重瞼の薄さに、鋭敏俊慧な直感力が潜んでいると矢代は思った。
 会場の空気に疲れ、矢代がお茶を飲みたくなったころ、塩野の叔父が黒の背広で会場へ顕れた。内閣を引いたばかりのこの人には、矢代は今初めて会うのだったが、写真ではいつも見ていてすぐ分った。
 老人たちは矢代には分らぬ他人の話を、暫くより合ってしているだけで、あまり写真の方には気をつけて見ようともしなかった。
 塩野の叔父は意志の強そうな、やや金窪眼の老人とはいえ、声には張りが籠ってきんきんとよく
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