薄鼠色の洋服に鼻眼鏡に似た眼鏡のせいもあって、年よりはるかに若く見え元気だった。この人は田辺侯爵とも知人らしく彼を見つけるとすぐ歩みをよせて来て、
「どうも懐しいですね今日は。」
 と壁面の写真を眺めながら挨拶した。小柄ながらも、いたって無頓着そうな、飄飄とした味いのある顔だったが、ときどき異様に鋭い閃きを見せる眼つきも伴い、人を見抜く才能の豊かさが頷けた。すると、丁度その後を追うように昇って来たこれも小柄な老人が、いきなり男爵の後から両肩をぐっと掴んだ。そして、子供が戯れるような恰好で、後の男を見ようとして振り返る男爵の眼を避けつつ、右に左に身を翻してふざけ始めた。観衆は何事かと二人の様子を眺めていたが、老人はそれらの視線には一向頓着なく、なお真顔で執拗くふざけつづけていた。
「誰かな、む? 高橋君か。どうも巧妙に逃げるところを見ると、――北浜君らしいぞ。」
 踉めきながらそういう男爵の背広が、だんだん後へ脱げそうになって来ても、老人はまだ赦そうとしなかった。
「やア、君か。」
 とうとう見つかって男爵に云われたとき、初めて立ち上った老人は、今度はにこりともせず、
「今日は苦労をさせ
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