響き、何より実行力の溢れたその確実そうな風貌には、世の荒波を押し渡って来てなお衰えぬ厚みがあった。殊に肩から胸へかけての手堅い力の盤踞した感じに、容易に内には籠りがたいまだ青年の名残りさえ感じられた。
矢代は知人攻めに会っている塩野を待っていても、これではなかなか茶も飲めそうな様子もなくひとり下へ降りていった。出口のところで後から彼に追いついた千鶴子が、
「何んだか時間が半ぱね、夕御飯まで歩きましようか。」と誘った。
矢代は暫く茶を附き合って貰いたいと云って、資生堂の喫茶部へ這入ろうとした。が、千鶴子は今さき這入ったばかりだからどこか別の所をと云ったので、二人は暫く群衆の流れの中に没し南の方へ歩いていった。
「御招待いらっしゃることになりまして。」と千鶴子は訊ねた。
「塩野君は出ろというので、そのつもりでいるんですが、大丈夫ですか。」
「大丈夫って?」
千鶴子はまた別の自分たち二人の結婚のことを考えたらしく訊ね返した。
矢代はそれには黙って答えず歩いていてから、
「今日あそこへ集った老人連、なかなか面白いですね。あれが明治、大正というものの代表者の一部の姿かと思って、僕は非常に
前へ
次へ
全1170ページ中789ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング