周囲に広い空地が出来ていた。矢代は日光に満たされたあたりのさっぱりした表情を、移り変って来た新しい隣人を見る思いで覗いていたが、暫くはなじめぬながらも、最早や過ぎた日の歎きは彼には起って来なかった。
 資生堂へ行ったとき、ホールの受け付けの椅子の傍で矢代は塩野と会った。塩野はいつものときより少し興奮の面で近よって来て、
「長かったんだね、雪の中。――そうそう、さっきここに千鶴子さんいたんだが、お茶飲に隣りへ行ってるよ。行こうか。」
 と塩野の癖の無造作さで矢代を誘った。
「まあ、写真を見せて貰ってからにしよう。壮観だね。」
 矢代は壁面に並んだ数十枚のノートル・ダムの写真をひと渡り眺めた。見覚えの怪獣や尖塔、廻廊やステンドグラス、側壁やキリストの彫像など、大きく引き伸ばされた鮮明な姿で、一瞬カソリックの大本山の実物が矢代の頭の中に氾濫した。
 彼はベンチで混雑した気持ちを鎮めて順次に左の方から眺めていった。初めの間は気づかぬことだったが、間もなく額縁の中の尖塔の鋭い美しさから、再び危く胸を刺して来る刃を感じるのだった。彼はすぐ千鶴子と会うのだと思うと、今はそういう危い目も振り払って進ん
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