った無数の死の中を透って来て蘇らせる音であった。キリストさえも蘇らせる音に聞えた。彼は坂路を頂きの方へ越して行ったがまだ踏まれぬ雪がますます深くなって来た。人家の灯はどこからも見えなかった。
 川は凍りつき氷の裂け目から流れ出ている水面だけ、僅に月に射し返って明るかった。水鳥が一羽ゆるい羽音をたてて飛んでいった。矢代は水面に明るく渦巻いている月の光りを眺めていると、どういうものか一度みそぎをしてから日本の中を歩きたい気持ちを強く感じた。もし千鶴子と結婚するなら自分はそれを済ませてからにしたいと思い、越後の国境いの高原の方へ出ていった。
 平坦になった路と並んで続いている瀬が、川床の石に捻じ曲り、綾を描いて潜り合う細流に月がますます冴え耀いた。


 矢代が東京へ戻ったときは、塵埃のかかる垣根から覗いた紅梅の蕾に粉雪が降っていた。樹の梢も薄紫の色を含み、早春の静かな歩みを知らせた照り翳りの日が多くなった。こういう日、塩野の写真展が資生堂の画廊で展かれることになった。矢代はバスの停留所まで出かけたとき、いつも見上げた欅は空から姿を亡くしていた。根元の太い切口が鮮やかな白さを残したまま、その
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