づいてして、矢代たちのいる部屋にもその忙しさが廻って来た。
 食事がそれからすぐ始まった。千鶴子は女中代りに男たちの茶碗の世話をしながらも、まだ矢代に云われたことが頭に閊えているらしく、あまり話さなかった。矢代は槙三に多く話を向けるようにして、物理学に関する新しい話題を聞き出すように努めるのだった。
 槙三が物理学の一番困っている新しい仮説の創造ということについて述べ終ったときに、
「ね、槙さん、お話別だけど、あなた古神道って御存知。」
 と千鶴子は横から訊ねた。
「さっきもこの方ね、自分は古神道を信じているんだと仰言るのよ、そのくせ何んのことか仰言らないわ。あなただって知らないでしょう古神道って。」
 槙三はただ黙ってにやにや笑っているきりだった。
「いや、それや、これはむずかしくって、僕だってよく分りませんがね。まア、一切のものの対立ということを認めない、日本人本来の非常に平和な希いだと僕は思うんです。ですから、たとえばキリスト教や仏教のように、他の宗教を排斥するという風な偏見は少しもないのですよ。千鶴子さんなんかの中にもこの古神道は、無論流れているものです。つまり、あまり高級すぎ
前へ 次へ
全1170ページ中760ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング