を穿いた橇の主が出て来ると、坂下の方へ炭俵をひいて下っていった。しかし、このときは、もう矢代は動き出した橇を眺めても興味が起らず沈むばかりだった。
「僕たちは人より一つ、余計なことで苦しまねばならぬとはいいことじゃないですよ。こんなことは始末につかないことだと分れば、その分ったことの範囲で何んとかしなくちゃ、僕はつまらぬと思うんだが。――何もあなたを嫌いで僕が虐めているわけじゃなし、――」
「あなたはあたしのそんな悲しみ、御存知ないんですもの。あなたのお母さんのことを思うと、きっと、あたし、叱られてばかりだと思えて、それが悲しいんですわ。あなたはお母さんの味方ばかりなさるの、定っているんだし――」
 千鶴子は矢代を正面からじっと見詰めて眼を放さなかった。彼の母に対する嫉妬のようにも見える強い千鶴子の眼差に、矢代は何か俄に返答を迫られているような怯みを覚えて身が緊った。
「しかし、どういうものか、女の人というものは、良い宗教でも邪宗にするくせがあるんじゃないかな。僕の母を見ていても、子供の僕でさえ困ることがあるんですよ。僕の父は家代代の真宗なんですがね。母ひとりは法華なんです。それという
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