て来た。
「僕は一度あなたにお訊ねしたいと思っていたのですが、毎日お祈りをされるときに、あなたらの使われる誓詞があるでしょう。それを一つ僕に教えていただきたいのですよ。どう仰言るのです。」
 千鶴子としては答えがたいことかもしれぬと矢代は思い、穏やかな気持ちでそう訊ねても、こんなこととなると争われず密偵のようなさぐりを入れる感じで心が曇った。
「あたしのは学校で教わったころのままですわ。」
 と千鶴子もすぐ、矢代の質問の意味を感じて他所行きの顔になるのだった。
「どうもいけないな。こんなことは知って置く方が良いのか悪いのか、僕にはまだ判断が出来ないんだが、しかし、誰にしたところで、心の中でそっと唄う唱歌はあるんですからね。さっきのあの子供だって、最後はくたびれて歌を唄ったですよ。あれは、橇の主を知らずに呼んでいる声なんだもの。そんなものがあなたにだってあるでしょう。」
「でも、そんなこと、御存知でしよう。」
 千鶴子はますます不愉快そうだった。宗教の違いとなるとこんなにも争いがつづくものかと、今さら矢代は事の難しさに、安心の出来ぬいら立たしさを感じて下を見た。間もなく宿の廂の下から藁沓
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