ぐ分ることだったが、下からでは動きそうに見えるのかもしれぬと矢代は思い、自然に自分の今のことも思い合せてなお下を見つづけるのだった。
 そのうち子供は餡パンを一口食べてからまた思い切れずに前に廻った。そして、橇の柄にぶら下ると今度は自棄になって足を柄にひっかけ、逆さにぶらぶらしながら唱歌を唄いだした。千鶴子も矢代も思わず一緒に上から笑った。
「ああでなくちゃ駄目だ。あの子はきっと出世をするな。」
 と矢代は云った。
「ほんとにね。あんなになればいいわ。」
 千鶴子も幾らか機嫌が直ったらしかった。
「僕らのも動かす方法をさえ考えれば良いのだが。」
「じゃ、あたしどうすればいいとお思いになって。」
 千鶴子は欄干から身を起し生真面目に訊ねた。
「まア、餡パンを食ってみたり、押してみたり、唱歌を唄ってみたりしているうちに、時間が来ればあの橇の主が出て来て曳いて行きますよ。人の運命と云うものは、そんなものじゃないのかな。」
「じゃ、あたしたちの橇の主は誰かしら。」
 千鶴子は一寸あどけない表情になりあたりを探す風に見廻していたが、それも困惑した思いに衝きあたったらしく、また苦しげな元の顔に戻っ
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