ただ遊べ、それが何より勉強だって仰言ったわ。」
「いや、あのときは一番それがほんとうだったのですよ。僕だって、あのとき遊んだことだけは後悔したことありませんからね。」
「そのせいね、こんなに帰ってから勉強したくなるの、――あたしね、洋裁の断ち方をもっと勉強して来て、自分で生活をしてゆきたいと思うの。そんなことこのごろいろいろ考えると、愉しいんだか寂しいんだか、よく分らなくなって困るんだけど――」
 どういうことを云いたくて千鶴子はそんなことを云い出したりしたのかと、矢代は暫く考えるのだった。槙三のいるため眼に見えぬ家庭内の気苦労を、露《あらわ》には云い得ず、暗に匂わす彼女の苦しさの歪みかと解することも出来れば、また一方どこかで、自分に衝って来ている角の鋭さも感じられ、矢代は返答に窮して黙っていた。
「こんなこと、もうやめましょうね。せっかくの御飯もったいないわ。」
 千鶴子はふと軽く翻るように云って、吸物をニュームの鍋から椀に注ぎ、それぞれの前に並べた。小食の矢代は皆より先に食事をすませてから、吸物の代りにコーヒーを懸け換えた。
「これで鶏の供養をすませたことになれば、有り難いんだがな
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