、千鶴子の外国行きのことが重く心にかかって来て、暫くは何んとなく空虚な箸の動きがつづくのだった。それにまた、千鶴子たちが東京へ戻ってから、いちいち自分のことを、母親に報告するにちがいない正直な槙三の現在の立場のことを思うと、彼が普通の客とは見えず、何か権威を具えた斥候のように見えて多少矢代は肩もこった。ただ幾らか矢代にとって都合のよいことは、自分が槙三を好きなことだった。
「しかし、あなたもう一度行くのそれだけはおやめなさいよ。」
 矢代は向き直るように千鶴子に云った。
「ええ。」と千鶴子も何か考え込む風に小声で云ってから、
「でも、今度行くのでしたら、あたしみっちり研究してみたいことがあるの。この前のときはすぐ帰るんだと思っていたでしょう。ですから、ほんの真似事みたいに外から調べただけだったけど、帰ってから何んだか惜しくって、あなたじゃありませんが、急に勉強したくてたまらなくなるんですのよ。」
「じゃ、あのとき、あれで何かあなたも研究してらっしたんですか。」矢代は千鶴子との交際の日のことを省みて自分の迂濶さに、今さら驚くように訊ねた。
「あのときは、あなたがいけないんですよ、あなたは
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