ようにぞろぞろ人人が降りて来た。千鶴子はまだ廻りやまぬプロペラの風に吹かれながら六七番目に現れた。
「いるいる。」
と久慈は云って喜んだ。ぴたりと身についた黒い毛の外套も船中の千鶴子とは違って立派であった。歩調も異境に馴れたと見え、誇りを失わぬ自信をもって歩いて来る。彼女はまだ二人のいるのには気附かぬようであったが、何んと女は早く変るものだろうと矢代は思った。
「変ったようだね。千鶴子さん。」
「うむ。」
千鶴子一人が外人の中に混っているために、出て来た一団の空気にある光彩を与えているようなこの光景を見ていると、矢代は何んとなく見ぬ間に美しく育った名馬を見ているような明るい興奮を感じた。
千鶴子は二人を見ると、にっこりと笑い懐しそうに近よって来た。久慈はすぐ千鶴子に握手をして、
「揺れなかったですか。」と訊ねた。
「いいえ、でもまだ耳が何んか少しへんなの。」
久慈に握手した手を千鶴子は矢代にも出そうとしかけたが、ふと手をひっこめ、
「よく来て下さいましたのね。矢代さんにもお報せしようと思ったんですけど、よしましたの。」
何んの意味であろうか、軽く千鶴子の笑ううちにもう後ろで荷
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