りで、鰻の駅弁の美しい鉢を眺め食慾を覚えているころだと彼は思った。


 その夜時間を計り駅まで矢代は出かけた。吹雪になりそうな怪しい空模様だった。ホームのすぐ裏まで押し迫っている岩肌へ吹きつける風が、また巻き返って構内の柱を鳴らせていた。足駄で汚れた雪の残った待合室のベンチに汽車を待つ間、矢代は間もなく着く千鶴子のことを考え、どこか浮き浮きしている自分だなと思った、すると、夢に見た例の千鶴子のことを思い出した。そして、妙にその彼女の顔が気の毒な表情に見えると、あたりに飛んでいる愁い気な様子さえ覚えて耳を澄ますのだった。実際それは我ながらおかしい空想にちがいなかったが、不思議とその千鶴子に実感が籠っていて、
「まア、待ちなさいよ。何んでもないよ。」
 と、山に籠ってからの独言のくせも出て、つい夢の彼女をなだめて云うのだった。やがて駅前の乱れた雪の中に客引きの提灯が並んだ。軽く吹き始めて来た粉雪の中を汽車が明るい灯の連りとなって入って来た。停った汽車の中から出て来た客に混り、千鶴子も黄鼬鼠《いたち》の外套で、後に矢代の見知らぬ青年をつれて降りて来た。
「あら、わざわざすみません、ひどい雪
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