いった。
東向きの適当な八畳を撰んで置いてから、後は廊下の欄干に手をついて雪景を眺め、暫くまた千鶴子に時間を奪われる覚悟を決めるのだった。まだ彼は自分の探している部分の研究に手がかりのつかぬときだったので、実はもう二三日来るのを延ばしてほしかった。彼女の病後せっかく会う機会も、仕残した調べものの片付かぬ気がかりがあっては、襟首を掴まれた形で落ちつきが悪かった。いつかも一度彼は書き物に夢中になっているとき、茶を飲もうとして傍のインキ壺を湯呑と間違えたことがあったが、今日の場合も千鶴子にいま来られては、浮かぬ顔が続き、さぞ冷淡に見えることも多かろうと案じられた。しかし、もう千鶴子は出発してしまっているころだった。女人という母乳に来られれば、やはり自分にはギリシアや科学の研究は不似合だ、と矢代は苦笑しつつ、
「いま幾時。」と女中に訊ねた。
「一時二十分。」女中は床の水仙から放した手の腕時計を眺めて答え、
「でも、この時計はときどき狂うんですのよ。」と注意して振子を捲いた。
「しかし、三十分も狂っていないだろう。」
「それは、――まア、五分か十分ですわ。」
それではちょうど千鶴子は大宮あた
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