ど退屈もしなかった。ただこの生活にもし書物がなかったら、恐らくこうして二日とはいられぬだろうと思うと、窓の外いちめんの白さが、ふと恐るべき退屈の塊りのように見えた。シベリヤを通ったとき矢代と同室の南が、十年前に一度雪のそこを通った景色も忘れたことを話し、
「あのときは雪が降りてたから、外なんか見なかった。いや、しかし、今度は驚きましたね。」
と、シベリヤの広さに驚歎したのを矢代は思い、十日余りも続くあの地の真白な世界を想像してみて、その途方もなく巨大な白い塊の中に生活して来たロシア人の表情も、所詮は、我れ識らずに退屈と戦って来た長い苦しさかも知れぬと思ったりした。退屈しのぎにせっせと人殺しをすることを書いた帝政ロシアの小説を、矢代はいつか読んだこともあった。それも雪のせいだったようにも記憶しておれば、また、昨日までの親友が明日自分のその友達を殺して平然としていることがよくあるのも、それも、突如として大平原に襲って来る気候の激変のためだと、モスコーを通ったときそこにいた日本人から聞かされて、なるほどここなら、それも別に不思議はないと頷いたこともあった。およそわが国のみならず、どの国の自
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