幾らか顔色も優れず元気もなかった。言葉は事実を喚び起すという譬えを矢代は思った。そして、冗談の当りすぎた気味悪さもまだ引かず、深くは塩野に病状を訊ねる気もないまま、無事退院の慶びも一言いったにすぎなかった。
「しかし、今度は千鶴子さん、どうやらへんらしいんだ。昨日電話で宇佐美と話しただけでよくは分らないんだが、どうもそうらしいね、熱も相当ある様子だなア、――」
塩野は声を低め気味悪そうに、笑顔もなく窓の外を眺めたままだった。それでは千鶴子にも来たかと矢代は急に身が緊った。庭がぼっと暗く見えて来る中で、白い山茶花の弁だけ明るく、地虫のかすかに鳴く声が耳に入った。パリで会った人物のうち、帰って来たものも今は塩野と千鶴子ただ二人だけだのに、その二人が日をあまり違えず同じ病いに襲われたのだと思うと、矢代は、もう自分の考え以外のところで事実が厳しく動いているのを感じ、云うべき言葉もなく黙っていた。森森とした寂しさが襟もとに迫って来た。
「しかし、君、黴菌の巣窟へ帰って来たから、病気になるなんて科学説、そんな馬鹿なことはないよ。科学的に云うと、何んだって日本が悪くなるのかね。」
矢代は急にそん
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