いや、へんなものだ。」
「誰が君を截りたおすのか、分ってるんだろうね君には。」
「うむ。毎日見てると、浅右衛門の手つきなかなか上手いよ。」
「云い残しておくことはないかね僕に。」
「ない。」と欅は一言いって暫く黙っていたようだったが、また空を見上げていてからぼそぼそと云った。
「じっとここにこうしていたようだが、これでも長い旅をして来たね。」
矢代は欅から眼を反らせてもう黙った。日焦けした土工たちの腕の汗が石の間で光っていた。砂利を混ぜ返す音がじりじり髄にこたえる向うの坂路を、バスが傾きながら流れて来た。
「ね、君、僕がここにいちゃ、人間の夢を邪魔するよ。そうだろう。」
とまた欅は云いかけて来たが、矢代はこのときはもう聞えない振りをした。
「まア、君と話の出来ただけでも嬉しいよ。僕なんかいなくなったって、――」
「さようなら。」
矢代は自分の見ていないとき截り斃されるか知れぬ欅の様子を感じたので、今からそっと別れをのべておいてバスに乗った。
塩野が二週間ほど入院していてからまたある日矢代のところへ訪ねて来た。
「とうとう病因分らずじまいさ。」
塩野は矢代を見るとそう云って
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