なことを云いたくなり、つい科学の悪口を云ってしまった。敏感な塩野は「うむ」と云うと、耳を動かす馬のようにぴりっと眼鏡を光らせた。そして、病中眠っている間は夢ばかり見ていたので、何んの事だかいまだに分らないと話した。矢代は千鶴子の容態をもっと知りたいと思ったが、彼女の母親のことを考えると直接見舞いに行くことも出来ぬ不便も、二人の間からはまだ解けぬのだと思った。
「今日はチロルの氷河の写真と、巴里祭の写真を持って来たんですよ。」
 矢代はそう云って出した塩野の包みをだるく受け取って開いてみた。葉書大に引延ばされた数十枚の写真も、そんなに見たくもない様子で彼はくりながら、自分の見て来たところの美しさも写真ではやはり駄目だと失望したが、それでもだんだん引き込まれて丁寧に見始めた。
「これこれ、このときだ僕の殴られたのは。」
 塩野は横から、巴里祭の日に左翼とカソリックの右翼の波の間に挟まれ、ひどく殴られつつシャッタを切った一枚を差して云った。しかし、その写真はサンゼリゼの激動の最中に撮ったものとは思えぬほど、映っている部分は静かだった。矢代は人人の押し狂っているさまよりも、背後の篠懸の街路樹が
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