ころあくまでなごやかさだと思って疑わなかった。
「僕はこのごろ一度、本当のみそぎというものを、してみたいと思ってるんですよ。あなたはどう思われるか、これは別ですがね。」
 と矢代は云って笑った。
「泥臭派なのね。あなたも。」
 定めしこう云うような表情が彼女の笑顔を濁すことだろうと矢代は思ったが、千鶴子は濠の枯草の底を辷って行く電車の屋根を見降ろしたまま、唇を小さくつぼめ、巻き起って来る考えにゆらめくらしい沈んだ表情をつづけていた。冴えた日光が黒い洋装の襟飾のレースに射し、千鶴子の小鹿に似た顎を浮き出しているのを、矢代は、あるあきらめめいた秋の日の和らぎのままに美しく眺めた。
「何んだか、あなたがカソリックだのに、僕がみそぎの話をするのも妙なものだけれども、やはり僕は男というものだから、自分が仕事をしてゆく上では、そっと中心を需めたくなるんですよ。」
「パリでお別れのときも、そんなことを仰言ったわ。あのときのこと、気にかかってときどき考えるんだけど――でも、そんなものなのかしら。」千鶴子は紅茶を匙で掬っては滴し滴しやはり沈んだ。
「何も僕はあなたの考えを、邪魔するつもりじゃありませんが
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