には、そんな風に考えられる。」
「じゃ、あなたはまだなの?」と千鶴子は顔を一寸赧らめて訊ねた。
「僕は東北でもうすませた。」
こんなことを話しているときでも矢代は、夫婦が話しているというような気持ちではなく、特にもう交際する要もなくなった、一番親しい友人同志に似た、和らぎを感じたが、しかし、これでいよいよもし結婚するようなことにでもなったら、細川忠興がガラシヤに詰めよったように、自分も千鶴子にカソリックだけはやめてくれと迫るのかもしれないと思われた。ただ今のような友人同志であってみれば、そんなことで詰めよる権利もなし、またその必要もないだけだった。しかし、どういうことともなく、二人の間でみそぎなどという言葉を使う場合に、一方がカソリックだと、相手の文化性を自認している心に羞恥心を抱かせる気具合を感じ、それに気づいても拭き消しもならぬ妙な気苦労を覚えて影が生じた。それも、云わず語らずにいる間は、思うだけで過ぎ去ってしまう瞬間にすぎなかったが、一たび口にしたとなると、それを習慣としてしまうまで押しきりたくなるのが、またみそぎという言葉の持つ厳しさだった。しかし、彼はこの厳しさの極のゆくと
前へ
次へ
全1170ページ中671ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング