塩野の容態を訊ねてみても要領を得ずじまいで、ただ眠らせつづけている以外方法はないとのことだと、千鶴子は矢代に説明した。それなら病人を起こさぬ方が良いと矢代は思い、二人は病院を出てお茶の水の傍の見晴しのよく利く喫茶店を選んで入った。
「あなたの兄さん、御機嫌はどうです。」
 晴れた空の中にニコライ堂の円頂もよく見えた。下の濠の傍を辷る省線の屋根を見降ろし、千鶴子と対き合っていると彼は云うことが何もなくなるのだった。
「兄はあなたに感心してましてよ。」
 そう云いながら羞しそうに表情を曲げた千鶴子を見て、矢代は、兄よりも自分の方に味方をしている彼女を感じ、いつのまにか、自分も千鶴子とどこかで結婚をすませてしまった後のような気持ちにふとなった。このまま二人が事実の結婚をするということは、何か不自然なことを別にするようにさえ思われる穏やかな気持ちだった。
「毎日何をしてらっしゃる。このごろ?」
「このごろあたし、ぼんやりしてるだけなの、何んだかしら、気が遠くなったみたいよ。あたしも塩野さんみたいになるんじゃないかしら。」
「一種のみそぎをしている時期だからな。僕らは――塩野君の入院でもどうも僕
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