うに光りが凄くなり、ねめ廻すあたりに逆に笑いの波を立ててゆく、不思議な猫を由吉は想わせた。彼は沢や矢代のコップに注ぎながらも、酩酊してゆく流れの底で異国に残して来た婦人の身の上に想いをはせているらしい。二三杯のみつづけたとき片肱を食卓につき、船に揺られるような調子で由吉は唄を歌い出した。
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わたしの好きなものは
この世に二つある
パリの夜の街の灯し火
胸に描くは
こころのふるさと
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 矢代は由吉の哀調を帯びた唄を聞いているうちに、何か自分のことを歌われているような切ない胸の響きを覚え、押し流され、溺れて行くような情緒に千鶴子の方を見ることも出来ず、歌詞に抵抗する気持ちがつづいて苦しくなった。千鶴子は兄の酔いざまを初めは一寸心配そうに見て笑ったが、そのうち引き摺り込むパリの夜の灯の色に、すぎた日の旅の儚ないもの音を聞きとったのか、彼女も突然くず折れるようにうつ向いたまま暫く顔を上げなかった。
 矢代もパリでの二人の日日が次から次へと思い出され、現にこうして旗本屋敷の中で対き合っている千鶴子の姿が、ますます別人のように見えて来るのだった。
「千
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