なそうに声を落して云った。
「君らはいいね。僕はそのころは、またヨーロッパだ。僕のは命ぜられるんだから仕様がない。」
 なるほどまだこれから行く人もあるのかと矢代は思うと、由吉の落した声を気の毒に聞くのだった。
「帰って来たばかりだのに、行く奴の話を聞くのは面白くないなア。」
 と塩野は急にがっかりしたように笑った。
「しかし、僕はさっきの矢代氏の、あのお話は面白いと思ったね。僕らは人間の幻影を拭き落してゆくのが運命だというね、僕もどうも、そんな気がするんだが。」
 パイプを啣《くわ》えた大きな顔を天井に向け、眼だけで塩野を見降すようにして云う由吉の様子を見て、矢代は、突然話を切り換えたその由吉の頭の鋭さを、風貌とは似合わぬ繊細な能力をひそめた商務員だと思った。
「幻影か――」と塩野は云ったまま黙っていたが、
「さっき来るとき矢代君、妙なことを云いましたね、枯葉の散って来たときさ、僕らは天罰を受けたと、君は云ったよ。あのとき何んだか僕ぞっとしたね。」
 笑い話のつもりらしかった塩野の意図に反して、何んとなく座は一瞬しんと静まり返った。千鶴子は座を立ってひとり外へ出て行った。別に眼ざわり
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