かったが、それなら、それもまた善しと思われる何ものかが、新しく生じて来ていることも事実だった。実際、彼と千鶴子の事件はまったく新しく、初めてこの夜出来て来ているような、異国のことではない、沈みながらもある生き生きとしたものが生れ始めているようにも思われる。矢代はときどき千鶴子の顔を眺めてみた。それはたしかに前の千鶴子ではない、何か悩みを含んだ慎しみの深さを加えて来ている、前よりはるかに現実的な千鶴子の顔だった。
「僕はこのごろ、日本の中を旅してみたくて、仕様がなくなっているんですよ。塩野君なんかとそのうちまたいかがですか。」
 と矢代は千鶴子に云ってみた。
「ええ、そのときはまた――。」
 千鶴子が眉を少し開いて云いかけようとしたとき、塩野はすぐ横から「いいなア、行こう行こう。」と勢い込んで千鶴子に云った。
「そのうちみんな、どっと帰って来るから、そしたら皆で一緒に行こうや。僕は自分のこれからの仕事としても、日本の良い所を写真にとって、どしどし外国へ向けてやらなくちゃならんのだから、何よりだ。もうそろそろ明日からでもかからなくちゃ。」
 塩野のそう云うのに由吉だけは一寸頭を撫で、つまら
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