間もなく、庭の石灯籠の袋に火が入り部屋の火影が竹林の足を染め出すころになって、女中に伴われ千鶴子たち二人が廊下を渡って来た。
鷹揚に肥満した背の高い兄と並び、クリーム色に山査子の花を泛べた千鶴子の服が、鳥の子の襖いちめんにぼうッと光圏を投げ拡げ、灯を映したその華やいだ色の中から、千鶴子は首を縮めてちょっと矢代を見ると眼を落した。それはパリで見たときよりも見違えるほどの美しさだった。そこへ塩野は気軽に二人の傍へ近より板についた賑やかな握手をした。矢代も塩野の後から千鶴子の傍へよって行ったが、握手をひかえ、どちらからともなく畳の上へ膝をついて、
「暫くでした。」
と彼が云うと、千鶴子も「御無事で」とただ幽かに云ったまま、赧らみの加わった眼もとをすぐ自分の兄に向けた。
「兄ですの、どうぞ宜敷《よろし》く。」
千鶴子に云われた兄の方は、坐り難げに円い膝を折って坐ったが、すぐお辞儀をするでもなく抜いた懐中から名刺を出して、ゆっくりと落ちつき払った初対面の挨拶をした。矢代は妙に間の合わぬ気持ちで二度もお辞儀をした。宇佐美由吉と書かれた文字もよく眼に入らぬまま、彼も自分の名刺を出したが、固くな
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