そこの羊飼の唄ね、あのレコードも手に入れたから、この次ぎ持って来ましょう。大石と二人で行ったんだが、大石はあれからスイスの公使付に替って、まだあそこにいますよ。千鶴子さんの兄貴も、あそこの唄のレコード欲しがってるんで、持って行ってやらなくちゃ。――あなた会いましたか、あれから?」
「いや、まだです。無事帰られましたか。」
 と矢代は力のない小声で訊ねた。
「帰ってますよ。僕昨日ちょっと電話で話してみただけだが、行ってみましょうこれから。」
「うむ。」矢代は生返事をした。行きたいことは山山だった。それはもう氷河の話が出たころから、千鶴子の名前がいっぱいに膨れ襲いかかって来ていたのだが、それが塩野から無造作にそう云いかけられると、急に返事に詰り、云いようのない苦渋な気持ちで即答が出来かねるのだった。塩野は矢代の表情を伺いながら、瞬間これも理解に苦しむ風な、うつろな眼のまま黙り込んだ。
「それより、夕御飯どっかでどうです。久しぶりですからね。」
 ようやく矢代はこう云って自分の苦しさを掻き除けた。
「ほんとに久しぶりだなア、千鶴子さん、夕御飯に呼んでやろうじゃないですか。喜びますよ。」
 再
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