会の喜びに夢中の塩野からまたそう云われては、矢代も今は抗しがたかった。それも、千鶴子を呼び出すほどなら、むしろ出かけて行っても良かったところを、彼女の家へ直接行き渋る矢代を遠慮とのみ思い込んだ、塩野の勘違いだった。矢代は、この喜びをそのまま素直に受取ろうとしない自分に気枯れのした暗さを二重に感じ、彼にそれも云えない焦燥のまま、不思議と彼は沈みこんだ。
「千鶴子さんに会うのも良いが、どうもね。」
 と矢代は笑いに紛らしながら、争われず塩野を見る眼も、さきからパリを懐しむ思いの方が遥かに強かった。そして、ともすると彼をただその背景の上に泛べているだけの自分を感じては、塩野もまた、こちらを同様に見ているにちがいないと思い出され、ふと差し覗いてくるような寂しさが、冷え冷えと薄気味悪い影を流して通りすぎた。それも、もしこのまま千鶴子に会えば、一層拡がるばかりのパリの影が、今はその前兆のような不吉な尾を、ちらりと跳ね上げ冷笑しつつ流れているかと思われる。
「どうもしかし、旅というものは不思議なものだなア。行くときにはただ夢中で行くが――君、もう暫くすると辛いですよ。こんなに辛いものだと思わなかった
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