二人はこうしているのだった。彼は塩野を抱きかかえたいような衝動をときどき感じたが、さも手持無沙汰のように煙草を喫いつづけてばかりいた。
「東野さんその後どうしてました。あの人も、そろそろもう日本へ着くころだと思うが、二三日前に来た久慈の手紙では、イギリスへ行ったということだが、あれから会われましたか。」
「会いました。あれから一度、東野さんの講演がありましてね。僕は聴きに行ったんだが、あんまり面白くもなかった。妙なことを云い出すものだからひやひやしてね。それでも、フランス人に講演するんだから、まアああいうより仕様がないんでしょうね。」
「それや、ひやひやするだろう。」
 と矢代は、東洋的な東野の一風変った、独断的な話の癖を思い出して笑った。
「しかし、万国知的協力委員会の幹事をしている佐藤という人が、今日は成功だ、と僕にそのとき云いましたよ。それでやっと僕も安心したが。」
「東野さん、どんな講演をしたんです。」
 と矢代はまた訊ねた。
「何んだかもう忘れたけれども、世界の人間が、世の中を愛するためには、先ず各国の人間が、今までの歴史と地理とを、それぞれ、もう一度あらためて認識し直すこと
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