つぎに出た母から名刺を手わたされたとき、「あっ」と矢代は云ってすぐ立ち上った。人が来たのではなく、パリが人の姿で不意に訪ねて来たような胸騒ぎを彼は感じ、弛んでいた帯を絞め直して玄関へ出ていった。
「やア、暫くでした。一昨日着いたんですよ。御無事でしたか。」
 塩野は勢い込んだ元気な顔を上に向け、両足を揃えた正しい姿勢で矢代に云った。
 矢代は塩野を応接室に上げてから、そこでまた一別以来の挨拶をした。どちらもパリにいるときは敬語を使わなかったのに、このときは妙に固くなり、互に初めて会うような鄭重な言葉が自然に出た。矢代はそれを崩すのも却ってぎこちなくなりそうで、溢れて来る感動も礼儀のために絞めくくられ、ともすると無感動な静かな表情になるのだった。
「しかしとにかくまたお会い出来て、良かったなア。」
 と何んとなく嬉しさに疲れ、二人が黙ってしまったとき、矢代はふとそう呟くように云った。窓からぼんやり庭の石榴を見ていた塩野は、云いたいのは自分もそれだと云いたいらしく、「うむ。」と頷いた。まったくどちらもここにこうして再び対き合っているという事実が、今は不思議な気のする一刻だった。またたしかに
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