分の悲しみも察して貰いたい。」
 矢代はこういう意味のことを書いているときにも、強く西日の射しつけたモンパルナスの街の中で、
「ああ、もう頭の中は弾丸雨飛だ。僕はただ絶望するばかりだ。」
 とそう呟きつつ日光を避け避け細めた久慈の眼差しを思い出した。
「どっちも生還おぼつかないか。」
 矢代はそれに答えてそう云ったと思ったが、久慈も、二人のそのときの様子を思い出したらしく、相当に彼の手紙の皮肉は利いていた。
 しかし、矢代は、久慈のミイラとなった死骸を迎えに出る日のことを考えながらも、彼を乗せて入港して来る船の中には、恐らく久慈同様な生きた死骸を沢山積んでいるにちがいないと思った。そして、それらのミイラとなったさまざまな幽霊が、日本の内部へぞろぞろ散って行く図を想像すると、やがて何かの肥料にはなるだろうそれら死骸の土の中から、やがて芽を出し、花を咲かせる草木の色艶も考えられた。またそれは、何らかの意味で光沢も増すにちがいない。
 彼は久慈にも、応酬したくなった皮肉にそんなに書いているうち、日本に初めて襲って来た、激しい西洋の波の有様を次第に強く思い泛べるのだった。それは戦国のころから、
前へ 次へ
全1170ページ中627ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング