うから、思い余ったように吐息をついて云う妹の声に、矢代は、なるほど幸子はまだ病人だったのだと気がついた。そして、ふとこれで妹は自分を心配させないために健康を装っているのかもしれないと思うと、自分と一緒に自由に異国を渡って歩いていた千鶴子の健康な様子と思い合せ、突然妹が気の毒になるのだった。殊にチロルの山の上で泊った夜、
「こんなにあたし幸福でいいのかしら、こんなこと、いつまでも続くものかしら。」
 と、蒼ざめた眼に恐怖を泛べて呟いたときの、あの千鶴子の吐息を矢代は思い出した。しかしそれは、今の幸子の息に籠った深い歎息に較べ何んという違いであろうと、今さら妹に同情した。寝台の傍の白薔薇に射している秋の日が、長く忘れていたものの幽かな息づきに見え一層矢代の胸を締めて来た。
「そのうち、どこへでも行けるようになるさ。ものというものは、心得さえ良ければ良いようになるものだよ。」
「それがあたしには出来ないのよ。」
 鏡から離れて幸子はショールのまま、土産物のハンドバッグを持ち財布の厚い金具をぴちりと立てて、兄の前を様子振りつつしなしなと壁の傍まで歩いてみた。そして、
「どう、いいでしょう。」と
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