に泛べ、元の古巣に戻っているこの自分の物思いは、もう母に話しても分らぬあれこればかりかと思われた。しかし、それにしても、何にいったい自分は悩み、何を希んでやまんのだろうか。――それにまた、この眼をつむったような寂しさはどうしたというのだろう。それは追えども追えども去らぬ寂しさだった。
「あなたお金足りたの。先日も三千円ばかり送ったんだけど、それは受取ってないようですよ。」
母にそう云われて矢代ははッと我に還った。異国で金を握り、銀行から出て来るときの、あの仏にあったそのままのような明るさを思い出したのだった。
「それは知りませんね。いつです?」
「今から一と月ほど前よ。」
「じゃ、駄目だ。」
矢代は、すべてが過ぎ去った日のことだと思ってがっかりした。その金が日本へ戻って来ることは確実だったが、異国で使う金額と、日本で使う同額とは、為替《かわせ》関係の意味ではなく、まったく別のものだった。
金にしてそうであるなら、まして千鶴子という生きた婦人のことである。千鶴子の心や身体に変りはなくとも、千鶴子その人の価値が変っている、ある全く不可思議な質の転換を、矢代とて今はどうしようもない、す
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