おうとしていた自分ではなかったと思った。しかし、何ぜこんなに悲しくさみしいのだろう。嬉しくて溜らぬ筈だのに、それに何ぜこんなにさみしいのだろう。それは云うに云われぬことだったが、今の自分のこの気軽さや歎きなど誰に洩してみたところで、忽ち押し流されてしまうそぞろな空しさだと思われた。彼はまた元気を出し浴衣を着替えに立ち上った。
ひと風呂浴びてから彼は母の前で横に身を崩すと、ようやく自分の家にいるらしいくつろいだ気分に幾らかなった。
「はい。お茶。」
と云って、母が出してくれた二度目の茶の熱さは、初めて体内を洗うように感じられた。彼は外国のことなど、一言も母が訊こうとしないのが気持ち良かった。ただ妹の幸子の病状や、親戚のことの変りなど、矢代に訊かれるまま話すだけだったが、こうして母と話している間だけ、あたりに光りの満ち和ぐ思いのするのが、円光に染って休んでいるようで愉しく、屈託のない暫くだった。彼はいつかは自分もこんなに円く曲って、母の胎内にいたこともあるのだと思った。そのときを彼はこの部屋だと見立て、それから遠く海を渡り、陸を廻って来た自分の変りをまた思ったが、見て来た世界のさまを頭
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