車の方へ戻っていった。車の中でも彼は、マルセーユへ上陸した途端に、同船の男たちがいままでの千鶴子を眼中から振り落してしまったときの、一日の恐るべき変化を思い出した。あのヨーロッパへ上陸した途端に、まったく千鶴子の魅力の消え失せた日とは逆に、今は彼女に面会することさえ出来ぬこの変化は、これはいったい何んだろう。
 矢代は車のライトに照し出されては消えてゆく家家を見ながら、その一つ一つに具った家風の違いを思うと、千鶴子と結婚する無理から起って来る自分の方の両親の困難が想像された。それは絶えず千鶴子の家へ自分の両親の頭を下げさせることであった。
「洋行から帰ると、その晩はホテルで泊る方が良いというが――」
 と、こういう心配と小さな誇りを持っている父に、頭をいつも下げさせてゆく子供に自分がなることは、いわば、洋行したためばかりに起って来た悲劇であった。船で日本を離れ始めてからは、乗客たちの身分とか、財産とか、名誉とかいうものの一切は、人の頭から吹き飛んだ平等対等の旅人となっていられた。しかし、その習慣も、帰れば誰に命ぜられたものでもなく、忽ちこのような、かき消えた自然さで再びもとのわが身に還
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